2018年07月30日

E02第4話「レミーの杞憂」

エピソード02:「魅惑の4分33秒」

第4話「レミーの杞憂(きゆう)」

 レミーはミュージカルの観劇を終えて自宅に帰って来ていた。ミュージカルで聞いた歌を鼻歌で歌いながら、自分の部屋のドアを開き、ドアを閉めると同時に、クルッと右回りにターンをしてポーズを決めた。

「フフフ・・・カッコよかったー。さすがイトイくんが太鼓判を押しただけのことはあったわね。・・・いや、期待以上かも。」

 レミーは持っていたバッグを机に置き、ベッドに仰向けに寝転んだ。そして、目を閉じてミュージカルで感動したシーンを思い浮かべては、満足そうに微笑んだ。

「イトイくんが歓迎会のネタに選んだのも理解できるわね・・・。だって、あんなにカッコいいんだから・・・。それに、メロディーがとってもステキ・・・。」

 そうつぶやいた直後、レミーは突然不安げな表情を浮かべ、目を開いた。

「・・・イトイくん、あれからどうしたかしら・・・。まさか・・・新ネタが思いつかなくて、最初の計画通りなんてことに・・・。もし、そうなっていたら・・・あの歌を、いつもの調子っ外れな音程で歌うわよね・・・。これまでは、あまり知らないアニソンだったから、コスプレやダンスの勢いに押されて見ていられたけれど・・・。今回は知っているぶん・・・。」

そう言ってレミーはベッドから飛び起きた。

「耐えられない!」

 レミーは机にある電波置き時計に目をやった。

「22時23分・・・。さすがに、もう帰宅しているわよね・・・。」

 レミーはバッグを自分のもとに引き寄せると、中からスマートフォンを取り出した。そして、イトイに電話をかけようとして、手が止まった。

「あら?わたしとしたことが・・・機内モードのままだった。」

 レミーは機内モードを解除する操作を行った。すると、メールの着信を知らせる通知が現れた。

「・・・え?イトイくんから?『お手伝いをお願いします』って、何だろう。」

 レミーはスマートフォンでイトイからのメールを開くと、それを読み始めた。読み進めるうちに、レミーの顔が笑顔に変わっていった。

「フフフ・・・どうやら覚悟を決めたようね。でも、あのプラネタリウムに目をつけるとはね・・・。さすがはイトイくん。あのステキな歌を汚されないのなら、なんでもお手伝いしますわよ・・・っと。」

 そう言って、レミーは『了解。マカシトキー!』と入力して、メールをイトイに返信した。

 すると、今度は電話の着信音が鳴り、レミーは一瞬驚いた。

「あーびっくりした。こんなタイミングで電話をかけてくるなんて・・・。私の行動が見えているのかしら?」

 そう言って、レミーはスマホを操作して電話に出た。

「はい。レミーです。どうしたの、パパ。」

 電話の主はミラー教授のようだ。教授の返事を聞いて、レミーの顔が曇った。

「・・・え?悪天候で飛行機が欠航って・・・うん・・・うん・・・じゃあ、歓迎会には間に合いそうにないのね?」

 レミーは心配そうに教授の話を聞いている。

「・・・うん・・・うん・・・なるほど、天候が回復するまではホテルで待機できるのは、不幸中の幸いね。・・・うん・・・とにかく、気をつけて。ママには伝えておくわ。・・・え?イトイくん?」

 レミーは顔をほころばせた。

「新ネタをするようにけしかけたんでしょう?・・・フフフ、やっぱりね。イトイくんは何かとんでもない事を思いついたみたいよ。・・・そう・・・フフフ・・・それはね、私もまだ詳しくは聞いていないけど、どうやら楽器庫にあったプラネタリウムを使って、ジョン・ケージをやるみたいよ。・・・フフフ・・・覚悟はしていると思うわ。・・・うん、本当に楽しみ。あ、ところであのプラネタリウムは何に使うつもりだったの?」

 教授の説明を聞いているうちに、レミーの顔が呆れ顔に変わっていった。

「・・・え?だって、あれは教授が自分で取り寄せたんでしょう?・・・へ?何それ?用途は特にないって、どういうこと?・・・うん・・・うん・・・え?・・・うん・・・じゃあ、イトイくんが使わなかったら、どうするつもりだったの?・・・え?何、その確信。どうして、イトイくんが絶対に使うなんて言い切れるのよ!」

 レミーは問い詰めるように顔をしかめた。。

「・・・え?・・・うん・・・うん・・・つまり、イトイくんがSFアニメが好きだから?・・・あきれた。それじゃ、ただの希望的観測じゃない!・・・うん・・・ま、確かに教授の思惑通りだけど、イトイくんが今回も使わなかったらどうするつもりだったの?」

 レミーは不服そうに口を尖らせた。

「・・・ふーん、それで新ネタを披露するように圧力をかけて、プラネタリウムをわざと見つかりやすいように出して置いたわけ?すっごい策士ね。我が父ながら感心しちゃったわ。」

 レミーは半ばあきらめたような薄笑いを浮かべた。

「フフフ。・・・はいはい。教授の仰せのままに。イトイくんには内緒にしておきます。それじゃ、気をつけてね。・・・はい。おやすみなさい。」

 電話を切ると、レミーは大きくため息をついた。

「ハァ・・・。まさか、あのプラネタリウムをイトイくんのために用意していたとはね・・・。でも、イトイくんもまんまと教授の思惑通りに動いてしまうなんて・・・まるでお釈迦様の手のひらにいる孫悟空みたい。フフフ・・・。」

 笑っていたのもつかの間。レミーの顔はみるみるうちに疑心暗鬼に包まれていった。

「もしかして・・・私も?」

そして、思いを振り払うかのように、顔を左右に振った。

「冗談じゃない!私の半分はママの血よ!そう簡単にパパの思い通りになってたまるかっての!」

 そう言って、レミーは右手の拳でベッドを打った。その後、部屋の一点を見つめながら、何かを考えていた。

「それはともかく・・・イトイくんにはプラネタリウムのいきさつを話さないようにって言ってたけど・・・。教授が悪天候で帰ってくるのが遅れることも・・・黙っていた方が良いわよね・・・。」

 そうつぶやくと、レミーはニンマリといたずら娘のような笑みを浮かべた。

「せっかくのやる気をそいでしまったら、かわいそうだもの・・・。それに、あのステキな歌が冒涜されるのを防ぐのも・・・私の大切な務めよ!」

 そう言って、レミーはほくそ笑みながら右手の拳で左の手のひらをパチンと打った。


 その頃、イトイはまだ研究室にいた。明かりを消した研究室には、プラネタリウムから映し出された星々が瞬いていた。しかし、突然その星々が消え、研究室は暗闇に包まれた。

「よし!これでいいぞ!」

 イトイの声が響いた。そして、イトイが壁のスイッチを入れると、研究室に明かりが灯った。

「ヘヘヘー。オーディオタイマーを使ってプラネタリウムの電源を入れる。そして、オフタイマーで4分33秒後に電源を切る。我ながら上出来だ。」

 すると、イトイのスマートフォンからメールの着信音が鳴った。イトイはジャケットの胸ポケットからスマートフォンを取り出して、画面を確認した。

「あ、レミーさんからだ!」

 イトイは急いでメールを開く操作を行い、レミーのメールを確認した。

「・・・『マカシトキー』って・・・。これって、あのミュージカルのセリフだよな・・・。」

 そう言って、イトイは笑い出した。

「ハハハ・・・レミーさんもすっかりハマっちゃったみたいだ。でも、気持ちよくお手伝いを了解してくれて良かったー。」

 イトイは満面の笑顔で喜んだ。しかし次の瞬間、その表情が固まった。そして、その顔はみるみるうちに疑心暗鬼に包まれていった。

「・・・『マカシトキー』は確か・・・主人公に協力するフリをしながら、実は敵の手引きをするスパイの口癖だよな・・・。もしかして・・・、ボクが初志貫徹で主人公の歌を歌うんじゃないかと疑っているのか?」

 そうつぶやくと、イトイは目を閉じで大きなため息をつきながら、スマートフォンを元のポケットに戻した。そして、いかにもやるせないと言った表情を浮かべた。

「ハァ・・・それはレミーさんの杞憂だよ・・・。レミーさんがミュージカルを楽しんでいる間、ボクはずっと、このプラネタリウムをどう使うか考えていたんだから、今さら・・・。」

 そして、イトイは力強く右手の拳で左の手のひらをパチンと打った。

「レミーさんや教授に何を言われても構うもんか!ボクは絶対、この『四分三十三秒』をやり遂げてみせる!みんなに、見たこともない風景の音を、心の音楽を感じてもらうんだ!」

 イトイは決意のみなぎった目で、一点を見つめていた。


 そして数日後。新入生歓迎会当日を迎えたイトイは、学生たちの前に立っていた。


つづく


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